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Author Archives: 鈴木真由美

インプラント治療ステップガイド

皆さま、こんにちは。
梅雨に入り雨に加え、むしむしとした暑さをも感じる季節となりました。
水分や栄養をしっかり摂り、体調等お気をつけてお過ごしください。

さて、皆さんは虫歯や歯周病で抜歯をするとなった時に歯が無くなった部分をどうやって治療するかご存知でしょうか?
もともと歯のあった部分に金属のワイヤーで人工の歯を固定する「部分入れ歯」や、抜いた歯の両隣の歯を削って連結した被せ物を入れる「ブリッジ」、歯肉を開き骨にインプラント体を埋めて被せ物をする「インプラント」の3つの治療法があります。

今回はこの中でインプラント治療について詳しくご説明したいと思います。

①インプラントの仕組み

インプラントはインプラント体、アバットメント、上部構造の3つから構成されています。
「インプラント体」とはフィクスチャーとも呼ばれ、顎の骨に植わる部分のことです。
「アバットメント」とは日本語で支台という意味で、フィクスチャーの上にある人工歯の土台となる部分のことです。
「上部構造」とは、クラウンのことで種類としては一般的な被せ物と同じです。

②インプラント治療の流れ

インプラント治療の大まかな流れは「診査診断」「治療計画立案」「軟組織・硬組織マネジメント」「外科手術」「補綴治療」です。

〈診査診断〉
まずインプラント治療を行うにあたり、患者様それぞれの口腔内軟組織の視診や清掃状態の確認、欠損部分と対顎とのクリアランスの確認、X線画像による顎骨硬組織密度や分布の画像診断等を行う必要があります。
X線画像上での硬組織内部と分布状態把握を行うことでインプラント治療の可否を決定致します。

〈治療計画立案〉
治療計画とは、インプラント体を顎骨のどの部分にどの角度で埋入するか、どういった素材を用いて補綴処置を行うか等を決めることです。
具体的にはX線CT撮影によって得られた3Dデータを用いて、専用のソフトを用いてパソコン上で計画を立てます。

X線CT撮影では普段のレントゲン画像と違い平面ではなく、立体的な骨の形・神経の通り道を観察することができ、インプラント治療時には必須のものになります。

この画像はCT画像です。
下顎の中を通る下歯槽神経の位置をマーキングし、3Dデータ上に印記し、上部構造の位置などを考慮しながらインプラント体の長さや埋入部位と方向、深度を決定します。

〈軟組織・硬組織マネジメント〉
インプラント治療でインプラント体を埋入するにあたり重要になってくるのは顎骨の高さや幅です。
顎骨の骨は外傷や歯周病などで失われるだけでなく、歯の喪失に伴い萎縮し、上顎では上顎洞に、下顎では下顎管(下歯槽神経等)に近接します。
骨の吸収によりクラウンインプラント比や上部構造形態にも影響し、隣接する天然歯との並びにおいても不調和が生じることになります。
もし、骨幅の不十分な状態で埋入を行ってしまうと、埋入後に骨吸収が助長されてしまう可能性もあります。

硬組織マネジメントの方法として、1.自家骨移植2.骨再生誘導法3.上顎洞挙上術(ソケットリフト、サイナスリフト)4.骨延長術5.スプリットクレフト等の方法があります。

左下臼歯部に骨補填を行い、
インプラント体埋入

また軟組織の状態も重要な治療項目です。
軟組織マネジメントにおいては見た目やブラッシングのしやすさ等が重要な項目となってきます。
インプラント周囲にしっかりとした幅と厚みをもった粘膜が存在すればインプラント周囲粘膜界面における組織剥離に抵抗でき、インプラント体をしっかりと保護することができます。
また上部構造と調和した適度な幅と厚みのある粘膜が存在することで審美的にも優れた状態となります。
軟組織マネジメントの種類としては一般的な歯周外科治療で行われるような遊離歯肉移植術や結合組織移植術が行われます。
硬組織だけでなく軟組織の状態も同時に加味し、計画立案することがインプラント治療を成功させるために不可欠となります。

  

〈外科手術〉
治療計画立案後はいよいよインプラント体埋入の外科手術となります。
インプラント体埋入手術には1回法と2回法があります。
1回法はインプラント体を埋入後、インプラント体上部あるいはアバットメントを粘膜上に露出しておき、粘膜を閉鎖せずにインプラント体と骨の結合を待ち、2回法ではインプラント体埋入後、粘膜を完全に閉鎖し口腔内に露出しない状態で骨との結合を待つ方法です。
2回法では骨との結合後、アバットメントを連結させる二次手術が必要となってきます。
1回法は二次手術が不要であることが大きな利点で、患者様にかかる負担が少なく、治療期間を短くすることができます。
その一方でインプラント体あるいはアバットメントが口腔内に露出していることでインプラント体に外力が加わるリスクがあります。
1回法は欠損部の骨の状態が良好で、二次手術時に軟組織マネジメントを併用する必要のない場合などに適用となります。

2回法ではインプラント体は粘膜に覆われ口腔内に露出しないため、インプラント体の安静が確保できることが大きな利点です。
一方で二次手術が必要となるため1回法と比較して侵襲が大きくなってしまいます。
2回法はインプラント埋入時の固定が獲得できない場合や骨造成が必要になる場合に適応となります。

このように2通りの方法があり、患者様の口腔環境または体調等を鑑み、慎重に術式を選択していきます。

〈補綴治療〉
インプラント体を埋入後、アバットメントを装着し、型取り後に上部構造を作成・装着し、インプラント治療が一通り終了します。
上部構造とインプラント体との連結方法として、スクリュー固定式とセメント固定式の二種類が存在します。
それぞれ利点欠点が存在しますが、状況に合わせて選択します。

スクリュー固定式では上部構造とインプラント体とを小さなスクリュー(ねじ)を用いて固定します。
セメントを固定に用いないので、高い適合が求められるためインプラント体との適合性良好です。
また、容易に取り外しができるためメインテナンスがしやすいのも大きな利点です。
一方、スクリューを通す穴(アクセスホール)が上部構造咬合面に存在するため、アクセスホールを封鎖したとしてもセメント固定式に比べると審美性に劣るのが欠点です。

セメント固定式では上部構造とインプラント体とをセメントを用いて固定します。
スクリュー固定式と異なり、上部構造にアクセスホールが存在しないため審美性に優れます。
一方、仮着用セメントを用いるため維持力コントロールが難しいです。
また、あふれたセメントを取り残す可能性もあり、セメントがインプラント歯周炎の原因にもなる可能性があることが欠点と言えます。

以上のことから現在では、取り外しができメインテナンス性にも優れるスクリュー固定式の固定方法が主流になりつつあります。

 

③油断できない!インプラント治療のその後

インプラント治療で大切なのはメインテナンスです。
インプラント治療というのは、異物を生体内に埋入し、上皮を貫通させ口腔内に露出させるといういわば病的な状態を保つという特殊性から、定期的なメインテナンス・リコールが重要になります。
5年以内に起こるインプラント治療後の併発症で多いものは「歯冠前装部の破折」や「インプラント周囲炎や軟組織トラブル」、「スクリューの緩み」等が挙げられます。
特にインプラント周囲炎になってしまうと、インプラント周囲の軟組織の炎症や骨の進行的な吸収が起き、最悪の場合インプラント体を除去しなければならなくなってしまうこともあります。
ブラッシング指導や機械的クリーニング、プロービング検査、抗菌療法、エックス線検査などを行い、インプラント周囲軟組織の初期病変を早期発見し、対応できることが大切です。

インプラント治療の流れとメインテナンスについて説明いたしました。
ただ埋めるだけではなくしっかりとした術後管理が必要となります。
歯科医師だけでなく、患者様の日ごろの歯ブラシやフロスをしていただくことで共にインプラントを維持していきます。

長くなりましたがインプラント治療の概要は以上のとおりです。
インプラント治療のほか、入れ歯やブリッジ等につきましても、何か分からないことがありましたら、いつでもご質問ください。

歯科医師 濱田 崇人

参考資料
・日本歯科医師会ホームページ.“インプラント-歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク8020”.https://www.jda.or.jp/park/lose/index19.html,(2024-6-3).
・赤川 安正他編.よくわかる口腔インプラント学 第4版 .医歯薬出版,2023.
・宗像 源博.エビデンスに基づいたインプラント治療・骨造成: Early Failure回避のためのコンセプト.医歯薬出版.2024,

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歯周病を治して長生きしよう!!

皆さまこんにちは。
6月に入り木々の緑が色濃く美しい時期になりましたね。
日差しも強くなり、初夏の気配を感じる今日この頃ですが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
この時期は、新年度の疲れが出やすい頃でもありますので、どうかお身体を大切になさってください。

本日は、最も多い口腔疾患『歯周病』についてのお話しをさせていただきます。

《歯周病とは??》
歯周病原細菌と呼ばれる細菌の感染によって引き起こされ、歯を支える歯周組織(歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨)に炎症が起こる病気です。

《なぜ歯周病が起こるのか??》
もちろん歯磨きをしないことは原因の一つですが、それだけではありません。
生活習慣や、さらには細菌に対する患者さん固有の感受性も大きく関わってきます。

《歯周病と全身の関わり》
歯周病は局所的な疾患ですが、歯周ポケット内の感染からいくつかの経路を経て、全身へと波及していきます。
経路のうち、1つは細菌感染の波及(口腔細菌の直接的作用によって引き起こされる、口腔以外の場所での菌血症や感染)、もう1つは歯周病の炎症反応が全身の炎症に影響をもたらすパターンです。

健康な時は、歯肉構内上皮な局所自然免疫は、自然なバリアーとして機能し、細菌の侵入を予防します。しかしながら、歯周病になるとバリアーとして機能しなくなり、細菌の入口となってしまいます。
特に、菌血症は、歯磨き・食事・口腔内診査・歯内治療の機械的な手段で悪化することがあります。

《歯周病新分類の登場》
従来の歯周疾患分類はArmitage が 1999年に報告しました。この分類では、「過去と現在」のみを反映していました。
18年の年月を経て、今回の「歯周病新分類」は、従来の「過去と現在」を反映する役割を担うステージ分類に加え、疾病活動性やリスクを示すグレード分類が、「未来」の進行リスクを示唆しています。
また、新分類の最も大きな変更点として、歯周病に影響与える全身的なファクターとして、「糖尿病」と「喫煙」が含まれていることです。

《歯周病と糖尿病の関係》
糖尿病とは、インスリンの分泌量の低下やインスリンの感受性の低下などのインスリン作用不足によって引き起こされる高血糖状態を特徴とする代謝症候群です。
糖尿病の概念として、

①高血糖で代表される特徴的な代謝異常
②その原因としてのインスリン作用の不足
③代謝異常が続くと特有の合併症が起こる

など、大きく3つの特徴があります。
糖尿病によって高血糖状態が持続すると、様々な合併症を引き起こす事は多く周知されています。
糖尿病の合併症には感染症も挙げられ、免疫細胞の機能の低下などによって感染状態になる歯周病も感染症の1つです。

歯周病は細菌感染がトリガーとなる炎症であり、糖尿病は先天要因を除くと、肥満、食生活、運動不足などによる環境因子が作用し、全身の慢性的な炎症がトリガーとなって、インスリンの抵抗性が現れる代謝性疾患である「炎症」を共通因子として、2つの疾患が双方に影響を及ぼし合います。

《歯周病が全身の炎症状態を亢進させると??》
歯周病が起きると、どのように血糖値に影響及ぼすのでしょうか?
歯周病が発生する過程では、炎症サイトカインや炎症伝達物質が産生され、それらの血中濃度は有意に上昇します。
インスリンを受け取る反応が鈍くなり、細胞表面のゲートが開かず、細胞が血中のグルコースを細胞内に取り込むことができなくなり、血中グルコースの濃度が上昇します。
この状態がインスリンが正常に機能していない状態で、糖尿病状態をさらに進行させるだけでなく、心血管疾患・アテローム性動脈硬化・周産期合併症・関節リウマチ・肺炎・慢性腎臓病・認知症・がん、など全身の病気との関わりがあります。
高血糖状態が続くことは、全身の免疫反応のバランスを壊して、さらなる炎症を引き起こしているのです。

《歯周病とどう向き合っていく??》
あらゆる病気と相互関係にある歯周病ですが、その疾患やリスクとなる疾患(高血圧や肥満など)をまず改善させることが必要です。
各々の疾患の治療・生活習慣改善指導と同時に、口腔ケアをしていくことは悪化のリスクを下げることができます。

つまり、食べることは、生きることにつながります。
食べるためには口腔内が良好な状態であることが重要になります。
新生児からお年寄りの方皆さん、口腔内に症状が出る前に、定期検診をして健康な生活を長続きさせましょう。

歯科医師 松井玲奈

参考文献
・木村 英隆他編.特定非営利活動法人日本臨床歯周病学会.歯周病と全身疾患: 最新エビデンスに基づくコンセンサス.デンタルダイヤモンド社,2023.
・村上 伸也他編.臨床歯周学 第3版.医歯薬出版,2007

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気になるお口の臭い

皆さま、こんにちは。
もう気づけば春の訪れを感じる季節となり、新生活を始める方も多いことでしょう。
新しい環境に胸踊らせつつ、不安に感じることも少なくは無いと思います。
感染への配慮はしつつも、長らく続いていたマスク生活も徐々に薄れつつある今、改めて自分の口周りの状態について見直すこともあるのではないかと考えます。

本日は「口臭」をテーマに少しお話させていただければと思います。
皆さんは自分の口臭について、気になる瞬間はありますでしょうか。
コロナの影響でマスク着用時間が長くなり始めた頃に、口のネバつきが増え、一度は心配になったことがあるのでは?と筆者は勝手に想像しております。
口臭の原因は様々であり、喫煙習慣、全身疾患、口腔乾燥や口腔内の清掃状態、歯周病等々が挙げられます。
他の人から特に指摘はされたことはないが、なんとなく不安を感じているという方もいらっしゃいます。
そもそも、口臭は自分で感じにくいという点が、1つの難しいポイントだと思います。
マスク着用は、口呼吸の頻度増加による口腔乾燥と、自分の息が外に出づらいという点が口臭への懸念と繋がっていると考えられます。

「口臭を人に指摘された」、もしくは「自分で気になる」と感じたとき、まず原因を疑うのは、息の出口である口腔内の環境です。
我々歯科では口臭の悩みについて、患者様からご相談を受けることもありますが、歯科では口臭をどう診断しているのか、どう対応しているのかを簡単にまとめてご紹介いたします。

まず診断に関してですが、問診、質問票等に加え、特徴的な検査方法が大きく分けて2つあります。

①人の嗅覚を使う
②測定機器を使う
の2つです。

①は口臭官能試験というもので、手順はシンプルに、第三者に口臭を嗅いでもらい、0~5の6段階評価を行うものです。
原始的ではありますが、後述する現在の小型機器では測定されない成分も含めて評価可能であるため、一番簡便かつ実用的で総合的な評価が可能と言われています。

②の機器にはいくつか種類があり、大学のような大型施設に配置してある口臭測定用ガスクロマトグラフィーといったものから、オーラルクロマ(エフアイエス株式会社)、ブレストロン(株式会社ヨシダ)のように小規模なクリニックでも使用可能な小型の口臭測定器があります。

オーラルクロマ 
((株)日本歯科商社 商品購入ページより参照)

【測定時間わずか30秒、どこでも測定できる口臭測定器】
小型・軽量で持ち運びもラクラク。測定ホースが1mあり、チェアサイドでもカウンセリングルームでも場所を選ばず測定できます。測定時間もわずか30秒で患者さんを煩わせません。

ブレストロンⅡ
((株)ヨシダ 商品情報ページより参照)

それらの機器は全て、口臭の主な原因物質とされている揮発性硫黄化合物(VSC)をターゲットに計測しており、その中でも硫化水素[H2S]、メチルメルカプタン[CH3SH]、ジメチルサルファイド[(CH3)2S]の3つが項目として挙げられます。
硫黄の匂いがあまり心地の良いものではないことは想像しやすいと思いますが
一般的に

硫化水素[H2S]:卵の腐ったような匂い
メチルメルカプタン[CH3SH]:魚や野菜の腐ったような匂い
ジメチルサルファイド[(CH3)2S]:生ゴミのような匂い

といったように、少し異なるニュアンスで表現されています。
(イメージしづらいかもしれませんが・・・)
これらの総量や、一部の機械では3つのバランスを測定することにより、口臭の原因を予測することが可能となっています。
例として、通常、硫化水素とメチルメルカプタンが総量の8割を占めているのですが、
この2つのバランスは

舌の汚れ(舌苔)が原因 → 硫化水素 > メチルメルカプタン
歯周病が原因      → 硫化水素 < メチルメルカプタン

以上のような傾向があるとされています。
また、ジメチルサルファイドが高値を示した際には、口腔内のみでなく腎不全などの全身的な要因が存在する可能性を示していると言われています。

検査結果により出た数値と、問診や質問票、口腔内の状況から総合的に判断して、診断を出すことになります。

次に歯科がどう対応しているかについてです。
口臭は、舌苔が原因となっていることが多く、その殆どが舌清掃による舌苔除去で改善すると言われています。
もちろん普段の歯磨きによるプラークコントロールや口腔乾燥への対応も重要となっています。
一方、歯周病が原因となっている場合は、重症度にもよりますが舌苔と同じく自分自身でのプラークコントロールに加え、歯石除去やポケット内の洗浄と、重症であれば歯周外科手術などが適応となるため、すぐ根本が解決して完治とまではいかないかもしれません。
しかし、ある程度短期間での症状改善が見込める可能性は十分にあります。
また、全身状態の関与が示唆された場合は、内科消化器系や呼吸器系などの医科への紹介を行う必要があります。
腎臓や肝臓の機能不全だけでなく、内服している薬剤が関与している可能性もあるため、再度身体の状態を確認することが大事になります。
口臭の原因が複数関与している際は、歯科での診察も並行して行うケースも考えられます。

前半に述べたように口臭は自覚することが難しく、あくまで他人の客観的な評価によるものであるため、不安に陥りやすいという側面があります。
人に直接相談しづらい症状ではありますが、口臭から、普段見えていなかった身体のサインを読み取ることができる可能性がありますので、なるべく1人で悩みすぎず、歯科等の医療機関で相談することをおすすめいたします。
原因や状態の程度が把握できると、気持ちもかなり楽になると思います。
お悩みの方は、いつでも気軽にご相談ください。

歯科医師 白井 健太郎

参考文献
1)東京医科歯科大学 歯科東京同窓会報 No.201.
医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 財津 祟.p40-43

2)口臭.MSDマニュアル
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/

3)株式会社日本歯科商社.オーラルクロマ
https://www.dentalsupply.co.jp/product/detail_303.html

4)株式会社ヨシダ.ブレストロンⅡ
https://service.yoshida-dental.co.jp/ca/series/10757

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歯科と栄養の関わり

皆さま、こんにちは。
寒さが一段と厳しくなり、冷え冷えとした日が続いております。
冬は体調管理が難しいですが、温かい飲み物や栄養バランスの取れた食事でお体を温めて、お仕事や日常生活でお疲れが溜まらないよう、この寒い季節、どうぞ温かくお過ごしくださいませ。

さて、今回のテーマは「歯科と栄養の関わり」で少しお話させていただこうと思います。
我々にとって食事とは常に日々生きるために必要な要素であり、娯楽の1つとなっています。
いかに食事によって幸せを得つつ、自身の身体の調子を整えるかが、年を重ねるにつれてより大きな課題となっていくのではないでしょうか。
栄養バランスや量の話ですと、生活習慣病も大きなテーマですが
高齢化が着々と進んでしまっている現代日本では「高齢者の低栄養」についての話もよく耳にするかと思います。

そこには上図のような負のサイクルを代表例として、

・「栄養のことはわからないし特に気にしていない、好きなものだけ食べたい」
・「病気などで気力体力が落ちてしまい、食事で疲れてしまう」
・「味を感じにくくなった」
・「食べたくてもうまく噛めない、飲み込めない」

等々といった様々な原因が存在しています。
これらの全てを歯科が解決することは不可能です。
しかし、歯を含めたお口の環境と食事、栄養は切っても切れない関係ですので、歯科医師は一つの視点として、他の職種の方々と協力しながら一人一人の楽しい食事を支えていく取り組みを進めています。

実際に国の制度としては現在どのような動きがあるのでしょうか。
厚生労働省は、「来年4月(2024/4)の介護報酬改定に向けて、利用者のリハビリテーション、口腔ケア、栄養管理の推進を図る方策を検討していく」と発表しています。
在宅でも施設でも栄養管理を必要とする利用者はまだまだ多いことから、
リハビリ、口腔ケア、栄養管理を一体的に運用することが、自立支援・重度化防止の効果を更に高めることができる、と期待されています。
今後より一層、介護施設や居宅サービスといった環境下において歯科と栄養が関わる機会が増え、より適切な支援が可能になると予測されます。

先程も述べた通り、高齢者の低栄養に対して、歯科のみで解決できる範囲は限られてしまうため、多職種での連携はもちろん必須になりますが
もし、まず歯科で低栄養について注目するとなると

・身体的・社会的状況の把握
 (既往歴、現在治療中の疾患、体調や自立度、生活環境など)
・経時的な体重変化
 (最低1か月単位での変化を見ることで栄養状態の簡単なスクリーニングが可能)
・食事状況の把握
 (どんなものをどれくらいの量食べているか、誰が食事を用意しているか、
食事中にムセが起きていないかどうか)
・食形態について適切かどうかの判断
 (各々がそれぞれの機能に適した形態か、安全においしく食べられるか)
・その他、口腔内の環境で食事摂取に悪影響を及ぼす因子
 (う蝕や歯周病はないか、義歯は疼痛なく適切に使えているかどうか、乾燥していないか)

等といった情報が必要になってくるかと思います。
ここからまず大きな問題となっている因子を歯科的な視点で捉え、必要な情報を医師や管理栄養士などといった他の職種と共有し、解決策を模索するといった流れになります。

いかがでしたでしょうか。
省いてしまっている点はございますが、歯科が栄養に関わる仕事も担っており、徐々に活躍する場が増えていきそう、ということをなんとなく知っていただけたらと思い、書かせていただきました。

今回は低栄養についてのみ書かせていただきましたが、生活習慣病等の偏った食事や食べすぎにもお気をつけください。
何か質問等ございましたら、お気軽にご相談ください。

歯科医師 白井 健太郎

参考文献:歯科と栄養が出会うとき. 菊谷武・尾関麻衣子.2023-10-29
https://i.care-mane.com/news/entry/tanaka202300919
https://i.care-mane.com/news/entry/2023/09/20/132209
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/

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顎が痛い!顎関節症のお話

皆様こんにちは。
秋も一段と深まり、紅葉の美しい季節となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
さて、気候も過ごしやすくなり食べ物も美味しい時期ですが、ご飯を食べたり口を開けた時音がする、痛いと感じることはないでしょうか。
今回はそのような症状が出る疾患の一つである、顎関節症についてお話しさせていただければと思います。

1)顎関節症の概念

顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の疼痛、顎関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名です。
その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害,顎関節円板障害および変形性顎関節症です。

2)顎関節症の病因

顎関節症の発症メカニズムは不明なことが多いといわれています。
日常生活を含めた環境因子・行動因子・宿主因子・時間的因子などの多因子が積み重なり、個体の耐性を超えた場合に発症するとされています。
ここでお話しするのが、個別対応の重要性です。
年齢、性別、社会背景などによって発症因子やリスク因子が全く異なります。
例えば、近所に、すごくおいしいパン屋さんができたので、朝、昼、晩とフランスパンを食べ続けたら、痛くて口が開かなくなった。
あるいは、

・あごにいいと聞いて
・ぼけの予防によいと聞いて
・体に良いと聞いて

起きている間はずっと一日中硬いガムをかんでいました。
などといったことはないえしょうか?
このような医療面接を通じて状況を把握することが、管理、治療を行う上でKey pointとなってきます。

3)顎関節の罹患状況

「平成28年歯科疾患実態調査」をもとに顎関節に何らかの症状がみられる患者数を推定すると約1900万人となります。
癌は高齢になるほど患者数が増えますが、顎関節症は高齢になると患者数が減ります。
すなわち疫学的には、顎関節症は予後の良い、加齢とともに自然治癒する疾患と言えます。
ただし予後が悪く慢性化する患者も一定数存在します。

4)病態分類と治療について

・顎関節症の病態分類(2013年)

【○咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)】

治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
物理療法(咀嚼筋マッサージ)
運動療法(開口ストレッチ)
温熱療法
口腔内装置(オクルーザルアプライアンス)
※TCH(歯列接触癖のことがあり、上下の歯を持続的に接触させることを言う)

【〇顎関節痛障害(Ⅱ型)】

治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
運動療法(顎関節可動域訓練:開口ストレッチ)
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)
適応外使用(「顎関節症の関節痛」に対して)
ロキソプロフェン(ロキソニン)
ジクロフェナック(ボルタレン)
ナプロキセン(ナイキサン)
変形性関節症なら
アセトアミノフェン(カロナール)など
※NSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬の略で解熱鎮痛薬と同義語として用いられる)

【〇顎関節円板障害(皿型)】

・復位性
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
運動療法(顎関節可動域訓練:開口ストレッチ)
顎関節徒手的授動術(マニピュレーション)保険適応
に加えて
痛みを伴う場合はNSAIDSを投与
すごくラウドな雑音(大きな音)は内視鏡による処置も検討します。
音が鳴るのが怖くて大きく口を開けないなどといった行為は逆効果となります。

・非復位性
治療
行動改善(硬固物咀嚼制限、長時間咀嚼制限、TCHなど不良習癖の除去)
顎関節徒手的授動術(マニピュレーション)(顎関節円板の整位が可能な症例では試みる)
整位が不可能な症例では、顎関節可動域訓練(モビライゼーション)
痛くてもリハビリなので頑張って開けましょうと応援します。
難治の場合は内視鏡手術も視野に入れます。

【〇変形性顎関節症(Ⅳ型)】
臨床症状として、顎関節痛、開口障害あるいは間接雑音のいずれか1つ以上を呈するので、治療は他の病態に対する治療に準じます。

ここまで顎関節症についてお話しさせていただきました。先にも述べたように顎関節症はきちんと管理することで治癒していく可能性が高い疾患です。
そのため、過度に心配する必要はありませんが、あまり改善が見られない場合、悪化しているような場合には一度早めの受診をお勧めします。

歯科医師
永井 綾香

参考文献
顎関節症の指針2020(一般社団法人日本顎関節学会編)
がんの統計2022(公益財団法人がん研究振興財団)

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口腔アレルギー症候群

皆さまこんにちは。
時折感じるさわやかな風に、秋を感じるようになりました。

秋にはコスモスや金木犀など、季節の花も多く見られる時期ですが、実は秋にも花粉が飛んでおり、「秋の花粉症」を患っている方もいらっしゃるかと思います。
今回は、花粉症との関わりが注目されている「口腔アレルギー症候群」についてお話ししようと思います。

●口腔アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)とは?

1987年 Amlotらにより提唱された概念であり、何らかの食材によって口腔内や咽頭にアレルギー反応が出る病気とされています。
果物や生野菜に含まれるアレルギー反応の原因となるたんぱく質(アレルゲン)が、口の中の粘膜に触れて起こり、体内のIgE抗体(アレルギー物質に対する抗体)が関係しています。
また、花粉症の人が果物や野菜を食べた場合に際に生じるものを、『花粉-食物アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergy syndrome)』と呼ぶようになりました。

●どんな症状が起きる?

果物や生野菜を食べた直後から数分以内に唇や舌、口の中の粘膜、咽頭にかゆみやピリピリとしたしびれ、むくみなどが誘発されます。
ごく稀に、アナフィラキシーショックと呼ばれるショック症状を起こすこともありますが、多くは食後しばらくすると自然に消えるものがほとんどです。

●花粉症と食べ物にはどのような関係がある?

花粉症は、口腔アレルギー症候群の発症と同じく、目や鼻に入ってきた花粉からアレルギー反応の原因となるタンパク質(アレルゲン)が出されることで、目の痒みや鼻水といった症状を引き起こします。
花粉と食べ物の一部の間で、このアレルゲンの構造が非常に似たものがあることから、花粉症の人で口腔アレルギー症候群が発症しやすくなっていると考えられます。

●どんな食べ物で症状が出やすい?

リンゴやモモなどのバラ科の果物や、メロンやスイカなどのウリ科の果物で起きやすいとされています。
また、以下の図のように、反応する花粉の種類によって、口腔アレルギー症候群の原因となる果物や野菜は変わってきます。

●子供に発症は多い?

年齢層の幅は広く、大人になってから突然症状が出ることもあります。
また発症にも個人差もあるため、特定の食べ物で違和感があれば専門医の受診をお勧めします。

●対処法は?

根治療法は無く、症状の出た食べ物を避けることしかできません。
しかし、原因となるたんぱく質(アレルゲン)は熱や消化で変形し、発症しにくくなるため、加熱や加工で食べるなどの工夫を行うことで対処することが可能です。
症状が出た場合には、抗ヒスタミン薬が有効とされています。

いかがでしたでしょうか?
今回、「口腔アレルギー症候群」についてお話ししましたが、お口の粘膜の異常は、口腔アレルギー症候群以外にも病気が考えられます。
何かおかしいな?と思いましたら、お気軽に歯科医院にご相談ください。

歯科医師 奥村 知里

参考文献:「口腔アレルギー」治療法は.朝日新聞.2022-05-04.p.16.
https://www.tanijiri.com/specialty/oas
https://www.kyowakirin.co.jp/kahun/about/oas.html
https://www.jsaweb.jp/modules/stwn/index.php?content_id=14

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漂白(ホワイトニング)ってよく聞くけれど、何なの?

残暑がまだまだ厳しい日々が続いておりますが、秋の兆しも感じられるようになりました。
夜風が涼しく、朝晩の過ごしやすい気温が心地よい季節ですね。
この季節は、秋の味覚を楽しむと同時に、残暑の疲れを癒し、心身ともにリフレッシュすることが大切です。
美味しい秋の食材でエネルギーを充電して健康な日々をお過ごしください。

皆さんは、鏡で自分の歯を見て「前より黄色くなったなあ」「もっと歯が白くならないかなあ」と思ったことはありませんか?
今回は、歯の漂白についてお話ししようと思います。

漂白には、神経のない歯に行う➊「ウォーキングブリーチ」と、神経のある歯に行う➋「バイタルブリーチ」があります。
さらに、バイタルブリーチは歯科医院で実施する①「オフィスブリーチ」とご自宅で実施する②「ホームブリーチ」があります。
それぞれについてみていきましょう。

➊「ウォーキングブリーチ」

漂白剤を図のように歯の中に入れ、歯の内部から白くする方法です。処置後約1週間で再来院していただきます。
その間、継続して(歩いている間も)漂白されるため「ウォーキング=歩く」ブリーチと呼ばれています。
十分な白さになるまで、漂白剤の交換を繰り返します。3-4回される方が多いです。

適応症(できる方)
・根の先に膿が溜まって、根管治療した歯
・外傷(転倒や事故で歯をぶつけた)で歯髄が死に、変色した歯
・ある程度ご自身の歯が残っている歯

禁忌症(できない方)
・金属による変色
・無カタラーゼ症の方

➋「バイタルブリーチ」

バイタルブリーチには、①「オフィスブリーチ」②「ホームブリーチ」の2種類があります。

①「オフィスブリーチ」は歯科医院で行うもので、1回の治療時間は長いものの、その日のうちに白くすることができます。
漂白操作は歯科医師と歯科衛生士が行うので、口を軽く開けているだけで大丈夫です。

一方、②「ホームブリーチ」はマウスピースをご自宅にて装着する方法です。
毎日一定時間、マウスピースに薬剤を入れて装着していただきます。
利点として、漂白効果の持続時間が長い、自然な白さになりやすいという報告があります。

「オフィスブリーチ」「ホームブリーチ」には、下の表に示すような違いがあり、一概にどちらが優れているとはいえません。
そのため、オフィスブリーチとホームブリーチをどちらも実施する「デュアルホワイトニング」という方法もあります。

オフィスブリーチ
ホームブリーチ
実施者 歯科医師、歯科衛生士 患者様
場所 歯科医院 自宅
治療時間 約90分 1日約2時間×約14日
漂白操作 簡単 煩雑
使用する漂白剤の濃度 高い 低い
効果持続期間 やや短い やや長い
効果が出るまで 即日 1-2週間

適応症(できる方)
・加齢による変色
・軽度のテトラサイクリン歯
・軽度のフッ素症

禁忌症(できない方)
・表面に亀裂のある歯
・欠損が大きい歯
・無カタラーゼ症の方

漂白後の注意

・知覚過敏症
オフィスブリーチでは術直後、ホームブリーチでは開始数日後に歯がしみる症状が出ることがあります。
症状が出た場合、知覚過敏を抑制する薬剤を塗布したり、知覚過敏用の歯磨剤を使用していただいたりすることで収まる場合がほとんどです。

・歯肉の白色化
歯肉が漂白剤に触れることで、白くなることがあります。
数時間から1日程度で元の色に戻りますのでご安心ください。

・飲食物の制限
オフィスブリーチでは漂白後24時間、ホームブリーチでは漂白期間中歯に色が付きやすい状態となるため、色の濃いもの、ポリフェノールが含まれるものなどを避けて下さい。
また、しみやすいため酸性が強いものも避けて下さい。

・色の後戻り
白くなった歯が再度着色してしまうことで、半年から1年で起こることが多いです。
普段の飲食物や生活習慣で個人差があります。

そもそも、何故漂白で歯が白くなるの?

使用する薬剤に秘密があります。
皆さんは「過酸化水素」をご存じでしょうか。
濃度3%前後の過酸化水素水をオキシドールともいいますが、身近なところでは洗濯用漂白剤に含まれています。
この過酸化水素水は光や熱、アルカリ環境、触媒等で分解される過程で、ヒドロキシ(OH)ラジカルというものを生じます。

過酸化水素を歯に応用すると、このヒドロキシラジカルが有機化合物=汚れや着色を分解するため歯が白くなります。
そのため、漂白で歯が削れることはありません。

いかがでしたでしょうか。
ホワイトニングの細かな治療の手順や費用に関して興味のある方は、歯科医師、歯科衛生士までお気軽にお問い合わせください。

歯科医師 田代 憲太朗

(参考文献)
保存修復学21 第6版 永末書店
保存修復学 第7版 医歯薬出版株式会社
これで納得!デンタルホワイトニング 医歯薬出版株式会社

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健康寿命と矯正治療

皆さま、こんにちは。
春の訪れが早く、桜の開花も昨年よりも6日も早く発表されました。
新型コロナウイルスを巡る規制緩和も広がり、通常とは言えないまでも3年ぶりにお花見が楽しめる機会が増えそうです。
まだまだ季節の変わり目ですので、体調を崩されないようにご自愛ください。

日々診療していると近頃、矯正治療を希望される成人の患者さんが増えてきたように感じます。
コロナ禍でのマスク生活では窮屈な生活を余儀なくされていましたが、口元をマスクで隠しているこの機会に、今まで二の足を踏んでいた矯正治療に踏み切る方が多いのではないかと思います。
そこで今回は健康寿命の側面からみた矯正治療の利点をお話したいと思います。
矯正治療は審美的な問題を解決することはもちろんですが、かみ合わせを治すことによって高齢になっても歯を残し健康寿命の延伸にもつながると考えられます。

健康寿命

2019年の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳です。
一方、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいい、2019年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
平均寿命と健康寿命の差は10歳以上あり、健康寿命の延伸が生活の質の向上につながると考えられます。

皆さんは「8020運動」という運動はご存じでしょうか?
日本歯科医師会や厚生労働省が提唱している運動で、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動です。
高齢者になった時に自分の歯を残し健康な生活を送ること目的としています。
(提唱した当初(平成元年)には8020達成者は全体の10%に満たないとされていましたが、現在では50%以上が達成しています。)

8020運動

「80」は、提唱当時の日本人の平均寿命(平成元年)、「20」は「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数を意味します。
今までに行われた歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。
食物を満足に噛めるということは健康寿命にも関係していて老後健康な歯が多いほど認知症や寝たきりになるリスクが低くなるとこが分かっています。

東京都文京区と千葉市で8020達成者を精査したところ、どちらの調査でも「不正咬合」である反対咬合と開咬がいなかったとの報告があります。
反対咬合や開咬は不正咬合の中でも特に奥歯に負担がかかるかみ合わせで、長年負担がかかっていると奥歯から喪失していき残存歯の減少につながると考えられます。

不正咬合

歯並びや噛み合わせの状態が良くない状態の総称。
歯の位置や歯列弓、上下の噛み合わせなどから起こり、放置すると日常生活に支障が出る場合がある。
正常ではない咬合(かみ合わせ)のことです。

不正咬合の種類

叢生(そうせい):歯がアゴに入りきらないでガチャガチャに生えている状態 歯がならぶ場所=骨の大きさとそれぞれの歯の大きさとの間のアンバランスでこのようになります。
歯みがきの時に歯ブラシが行き届かずに汚れが残りやすく、虫歯や歯周病の原因となります。

反対咬合(はんたいこうごう):下の歯が上の歯より前に出ている噛み合わせです。
上下の前歯の傾きに問題がある場合と下のアゴが大きすぎたり上のアゴが小さすぎることによる場合とがあります。

開咬(かいこう): 噛んできても、特に前歯が噛み合わない状態です。
前歯で食べ物をうまく噛みきることができないだけでなく、正しい発音ができないことが多いです。

上顎前突(じょうがくぜんとつ):上の前歯が強く前に傾斜していたり、上の歯ならび全体が前に出て噛んでいます。
また下のアゴが小さかったり、後ろにあることで見かけ上、出っ歯にみえることもあります。
この状態では、口を楽に閉じることができませんし、顔のケガで前歯を折ったり、くちびるを切ったりしやすいです。

矯正治療によって歯並びが良くなれば磨きやすくなり、歯を失う2大要因である、虫歯や歯周病のリスクを下げることができると考えられます。
また、上顎前突による前歯の破損のリスクを下げることや反対咬合や開咬のような奥歯に負担がかかるような不正咬合を改善することによって高齢者になった時の歯の喪失のリスクを下げることが期待できると考えられます。
歯並び、噛み合わせを治すことは歯の健康を保ち、高齢者になった時に健康な歯で物を食べられることによって、健康寿命の延伸にも深く関わってくると考えられます。
もちろん矯正治療にはメリットだけではなくデメリットもあり、矯正治療をはじめるためには詳細な検査をして個人個人にあった治療方針をたてて進めていく必要があります。

そろそろマスク生活も終わりが来そうな時期にはなってきましたが、この機会に一度ご自身の歯並びに関して歯医者に相談してはいかがでしょうか。

矯正歯科医 片岡 烈

(参考文献)
・日本矯正歯科学会HP
・e-ヘルスネット(厚生労働省)

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イオンチャネル

こんにちは。
梅の香に心和む季節となりました。
本格的な春の訪れが待ち遠しく感じます。
朝晩はまだ冷え込みが厳しいので、体調管理にお気を付けてお過ごしください。

私は現在、大学院歯学研究科で歯科研究に従事しています。
主な研究分野はイオンチャネルについてです。

イオンチャネルは、生体にとって欠かせない存在です。
「脳は電気信号で情報を伝えている」という話を聞いたことがあると思いますが、この電気信号を作り出すのがイオンチャネルです。
今回は、そんなイオンチャネルについて、

1.イオンとは
2.細胞について
3.イオンチャネルとは何か
4.イオンチャネルの生体内での役割
5.イオンチャネル研究の医療への応用

の5本立てでお話していきます。

【1.イオンとは】

イオンとは、簡単に言えば、電荷を帯びた原子のことです。
身近な例では、食塩(NaCl)を水に溶かすとNa+(ナトリウムイオン)とCl-(塩化物イオン)に分かれますが、このNa+とCl-がイオンです。

生体内にもイオンは存在していて、Na+(ナトリウムイオン)、Cl-(塩化物イオン)、K+(カリウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、HCO3-(重炭酸イオン)などの多くのイオンが含まれています。汗がしょっぱいのは、汗にナトリウムイオンが含まれているからです。
イオンの化学式には右上に小さく+(プラス)と-(マイナス)がついています。
+が付いているイオンはプラスの電荷を帯びている「陽イオン」、-がついているイオンはマイナスの電荷を帯びている「陰イオン」ということです。

また、イオンなどの物質は、多い方から少ない方に移動する「拡散」という性質をもっています。
食塩を水に溶かしたとき、かき混ぜなくても均一に広がりますが、これが拡散です。

【2.細胞について】

細胞は動物を構成する最小単位です。
人の身体は約37兆個の細胞で構成されていると言われており、多種多様な細胞が体中のあらゆる臓器に存在しています。
例えば、心臓を動かす心筋細胞、感覚を伝える神経細胞、骨を維持する骨細胞など、形も機能も様々です。

細胞は、細胞膜により細胞の中と外に区切られています。
細胞の中と外は液体で満たされており、細胞の外側に存在する液体を「細胞外液」、細胞の内側に存在する液体を「細胞内液」といいます。汗や血液(血漿)は細胞外液です。
細胞外液はナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩化物イオン(Cl-)の濃度が高く、細胞内液はカリウムイオン(K+)の濃度が高いという特徴があります。

(イオンの濃度を文字の大きさで表現しています。)

普段は、これらのイオンが細胞膜を通り抜けて移動することはありません。
しかし、ある条件下ではイオンは細胞の中と外を行き来することができるようになります。このときのイオンの行き来に必要となるのがイオンチャネルです。

【3.イオンチャネルとは何か】

イオンチャネルは、細胞膜に存在するタンパク質です。開閉する穴を持ち、細胞膜を貫通しています。
普段は、イオンが細胞の中と外を行き来することはありません。
しかし、イオンチャネルが開くと、穴を通ってイオンが細胞の中と外を行き来することができるようになります。

また、イオンチャネルには、特定の刺激によって開くという性質があります。
例えば、温度感受性イオンチャネルは、細胞外の温度変化によって開くイオンチャネルです。

さらに、イオンチャネルは特定のイオンのみを選択して通す性質があります。
例えば、ナトリウムイオンチャネルは、ナトリウムイオンのみを通すイオンチャネルで、それ以外のイオンは通しません。

つまり、イオンチャネルは、ある刺激に反応して特定のイオンを細胞の中に入れる(あるいは細胞の外に出す)ゲートのようなものです。
私が初めてこの話を最初に聞いたときは、駅の改札機みたいだなと思いました。
では、細胞の中にイオンが入ってくることは、生体にとってどのような意味があるのでしょうか。

【4.イオンチャネルの生体内での役割】

刺激によりイオンチャネルが開いて細胞の中に陽イオンが入ってくると、細胞の中はプラスの電荷が増え、それが電気信号となり情報を伝えます。
冒頭でもお話した、脳の電気信号、その正体はイオンチャネルによる細胞へのイオンの出入りだったのです。
しかも、その電気信号は脳だけではなく、体中のいろんな臓器(細胞)で生じています。
例えば、心筋細胞に電気信号が生じると心臓を動かし、神経細胞に電気信号が生じると感覚などの情報を脳に伝え、骨細胞に電気信号が生じると骨を作ります。

【5.イオンチャネル研究の医療への応用】

では、イオンチャネル研究は医療の分野でどのように応用されているのでしょうか。
イオンチャネル研究は、例えば、医薬品の開発に応用されています。
様々な医薬品がイオンチャネルの働きを制御する作用を持ちます。
また、既知の医薬品が今まで知られていなかったイオンチャネルに作用していたことが判明したという報告もあります。

全て列挙するとキリがないので、身近と思われる例を1つあげます。
皆さんは、歯の治療をするときに麻酔の注射を打ったことはありますか?
実は、この麻酔の注射薬はイオンチャネルを標的にした薬です。
この薬は、神経細胞のナトリウムイオンチャネルを開かなくする作用があります。
ナトリウムイオンチャネルが開かなくなると、刺激をされても神経細胞の中にナトリウムイオン(陽イオン)が入らないため電気信号にならず、痛みの情報が伝わらないので痛みを感じなくなります。


ここまで、イオンチャネルについて簡単にお話しましたが、本当はイオンチャネルの厳密なメカニズムはもっともっと細かく、未だに理解されていない部分も多いです。
この記事が少しでもイオンチャネルの理解に、ひいては医学の理解につながれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歯科医師 倉島竜哉

【参考文献】
・基礎歯科生理学 第7版 医歯薬出版株式会社
・カンデル神経科学 エディカル・サイエンス・インターナショナル
・ニューロンの生物物理 第2版 丸善出版

図はhttps://smart.servier.com/より作成

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口腔機能の低下症とは

皆さま、こんにちは。
日々厳しい寒さが続いておりますが、暦の上では少しずつ春が近づいてきているようです。季節の変わり目で体調を崩される方も多いと思いますので、うがい手洗いなどをしっかりして、体調管理にお気をつけてお過ごしください。

お口の健康に対しての関心が薄くなり、歯磨きの回数や時間が減ったり入れ歯やかぶせ物の不調を放置していると、知らない間に虫歯や歯周病が進行し、歯を失ってしまいます。
歯の本数が減ることで、お肉や硬い野菜を食べることが難しくなりその結果、タンパク質を主とした栄養不足が生じ全身の健康にも影響が生じます。
今回は、食事において重要な口腔の機能が低下していく「口腔機能低下症」についてお話させていただきます。

●口腔機能低下症とは

口腔機能低下症は、口腔の機能(食べたり飲み込んだりする機能、唾液を分泌する機能、話す機能など)が複合的に低下していく症状です。
口腔機能低下症は近年病名がつけられ、こうした名前で認識されるようになったのは、歯科の世界でもかなり新しいものです。

●口腔機能低下症の原因

まず主な原因として考えられるものは「加齢」です。
口腔内の感覚や、食べたり飲み込んだりする機能(摂食嚥下機能)、唾液を分泌する機能などは加齢とともに徐々に低下していくため、そうしたひとつひとつが、口腔機能低下症の症状を起こしていきます。
また、虫歯や歯周病、合わない義歯の使用なども、口腔機能低下症の症状の原因となり、日ごろの歯みがきなどのケアが行き届かないと、口腔内の環境が悪くなっていきます。
それ以外にも、全身疾患や薬の副作用なども関係してきます。
つまり口腔機能低下症は、さまざまな要因が複合的に影響しており、口腔機能は、日常生活や自身の体調と密接に結びついているのです。

●こんな症状がみられたら、口腔機能低下症かも?


 

「硬い物が以前に比べて食べにくい」「食事に時間がかかる」といった症状に最近心当たりはありませんか?
「年だから仕方がないこと」と思いがちですが、加齢変化による口腔機能の低下は、徐々に進行していくため、自覚症状に乏しいのが一般的です。

●検査方法

検査の項目は7つあります。(表1)

簡単に検査内容をそれぞれ説明すると、まずは口腔内の衛生状態の確認として、舌苔といわれる、舌に付着している汚れ(図1)の量を測定します。
また、口腔内の乾燥具合を確認し、測定方法としては、口腔水分計(図2)で湿り気を測ったり、ガーゼを噛んで唾液の量を測定したりします。
他にも、嚙む力や歯の本数の確認や、舌や唇の運動機能の検査、舌圧(舌が上顎の間に接する力)を測定します。(図3)
さらに、食べ物が上手に噛めているかの咀嚼機能の検査や、うまく食べ物を飲み込めるか、飲み込みに時間がかかっていないかどうかなどの質問に答えていただいて、嚥下機能を評価します。
これら7つの検査のうち3つ以上に問題があるようであれば、口腔機能低下症の診断となります。

●最後に

口腔機能低下症は原因の部分でもお話したように、加齢だけでなく、虫歯や歯周病、合わない義歯の使用、日ごろの歯みがきなどのケアが行き届いていないことも原因として考えられています。
口腔機能低下症を防ぐためにも、また、口腔機能低下症の早期発見のためにも、定期的に歯科医院で口腔内のチェックをさせていただき、一緒に、食べることや人との会話の楽しさを守っていきましょう。

歯科医師 奥村 知里

参考文献
一般社団法人日本老年歯科医学会https://www.gerodontology.jp/committee/001190.shtml
https://www.jads.jp/basic/pdf/document_02.pdf
https://www.life-qol.net/mucus
http://orarize.com/pdf/catalog.pdf
よくわかる高齢者歯科学

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