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イオンチャネル

こんにちは。
梅の香に心和む季節となりました。
本格的な春の訪れが待ち遠しく感じます。
朝晩はまだ冷え込みが厳しいので、体調管理にお気を付けてお過ごしください。

私は現在、大学院歯学研究科で歯科研究に従事しています。
主な研究分野はイオンチャネルについてです。

イオンチャネルは、生体にとって欠かせない存在です。
「脳は電気信号で情報を伝えている」という話を聞いたことがあると思いますが、この電気信号を作り出すのがイオンチャネルです。
今回は、そんなイオンチャネルについて、

1.イオンとは
2.細胞について
3.イオンチャネルとは何か
4.イオンチャネルの生体内での役割
5.イオンチャネル研究の医療への応用

の5本立てでお話していきます。

【1.イオンとは】

イオンとは、簡単に言えば、電荷を帯びた原子のことです。
身近な例では、食塩(NaCl)を水に溶かすとNa+(ナトリウムイオン)とCl-(塩化物イオン)に分かれますが、このNa+とCl-がイオンです。

生体内にもイオンは存在していて、Na+(ナトリウムイオン)、Cl-(塩化物イオン)、K+(カリウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、HCO3-(重炭酸イオン)などの多くのイオンが含まれています。汗がしょっぱいのは、汗にナトリウムイオンが含まれているからです。
イオンの化学式には右上に小さく+(プラス)と-(マイナス)がついています。
+が付いているイオンはプラスの電荷を帯びている「陽イオン」、-がついているイオンはマイナスの電荷を帯びている「陰イオン」ということです。

また、イオンなどの物質は、多い方から少ない方に移動する「拡散」という性質をもっています。
食塩を水に溶かしたとき、かき混ぜなくても均一に広がりますが、これが拡散です。

【2.細胞について】

細胞は動物を構成する最小単位です。
人の身体は約37兆個の細胞で構成されていると言われており、多種多様な細胞が体中のあらゆる臓器に存在しています。
例えば、心臓を動かす心筋細胞、感覚を伝える神経細胞、骨を維持する骨細胞など、形も機能も様々です。

細胞は、細胞膜により細胞の中と外に区切られています。
細胞の中と外は液体で満たされており、細胞の外側に存在する液体を「細胞外液」、細胞の内側に存在する液体を「細胞内液」といいます。汗や血液(血漿)は細胞外液です。
細胞外液はナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩化物イオン(Cl-)の濃度が高く、細胞内液はカリウムイオン(K+)の濃度が高いという特徴があります。

(イオンの濃度を文字の大きさで表現しています。)

普段は、これらのイオンが細胞膜を通り抜けて移動することはありません。
しかし、ある条件下ではイオンは細胞の中と外を行き来することができるようになります。このときのイオンの行き来に必要となるのがイオンチャネルです。

【3.イオンチャネルとは何か】

イオンチャネルは、細胞膜に存在するタンパク質です。開閉する穴を持ち、細胞膜を貫通しています。
普段は、イオンが細胞の中と外を行き来することはありません。
しかし、イオンチャネルが開くと、穴を通ってイオンが細胞の中と外を行き来することができるようになります。

また、イオンチャネルには、特定の刺激によって開くという性質があります。
例えば、温度感受性イオンチャネルは、細胞外の温度変化によって開くイオンチャネルです。

さらに、イオンチャネルは特定のイオンのみを選択して通す性質があります。
例えば、ナトリウムイオンチャネルは、ナトリウムイオンのみを通すイオンチャネルで、それ以外のイオンは通しません。

つまり、イオンチャネルは、ある刺激に反応して特定のイオンを細胞の中に入れる(あるいは細胞の外に出す)ゲートのようなものです。
私が初めてこの話を最初に聞いたときは、駅の改札機みたいだなと思いました。
では、細胞の中にイオンが入ってくることは、生体にとってどのような意味があるのでしょうか。

【4.イオンチャネルの生体内での役割】

刺激によりイオンチャネルが開いて細胞の中に陽イオンが入ってくると、細胞の中はプラスの電荷が増え、それが電気信号となり情報を伝えます。
冒頭でもお話した、脳の電気信号、その正体はイオンチャネルによる細胞へのイオンの出入りだったのです。
しかも、その電気信号は脳だけではなく、体中のいろんな臓器(細胞)で生じています。
例えば、心筋細胞に電気信号が生じると心臓を動かし、神経細胞に電気信号が生じると感覚などの情報を脳に伝え、骨細胞に電気信号が生じると骨を作ります。

【5.イオンチャネル研究の医療への応用】

では、イオンチャネル研究は医療の分野でどのように応用されているのでしょうか。
イオンチャネル研究は、例えば、医薬品の開発に応用されています。
様々な医薬品がイオンチャネルの働きを制御する作用を持ちます。
また、既知の医薬品が今まで知られていなかったイオンチャネルに作用していたことが判明したという報告もあります。

全て列挙するとキリがないので、身近と思われる例を1つあげます。
皆さんは、歯の治療をするときに麻酔の注射を打ったことはありますか?
実は、この麻酔の注射薬はイオンチャネルを標的にした薬です。
この薬は、神経細胞のナトリウムイオンチャネルを開かなくする作用があります。
ナトリウムイオンチャネルが開かなくなると、刺激をされても神経細胞の中にナトリウムイオン(陽イオン)が入らないため電気信号にならず、痛みの情報が伝わらないので痛みを感じなくなります。


ここまで、イオンチャネルについて簡単にお話しましたが、本当はイオンチャネルの厳密なメカニズムはもっともっと細かく、未だに理解されていない部分も多いです。
この記事が少しでもイオンチャネルの理解に、ひいては医学の理解につながれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歯科医師 倉島竜哉

【参考文献】
・基礎歯科生理学 第7版 医歯薬出版株式会社
・カンデル神経科学 エディカル・サイエンス・インターナショナル
・ニューロンの生物物理 第2版 丸善出版

図はhttps://smart.servier.com/より作成

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