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歯がしみるメカニズム

皆さまこんにちは。
3月になり朝晩はまだ寒い日もありますが、日中は日差しが春らしくなってきましたね。
季節の変わり目で、体調を崩される方も多いようです。
うがい手洗いなどをしっかりして、体調管理にお気をつけてお過ごしください。

歯がしみる経験をしたことはありますか?

冷たい物や温かい物を食べた時、歯ブラシの毛先でこすったときなどに起こったことがある方もいるかと思います。
今回は、歯がしみる痛みのメカニズムの一説を、最新の知見を踏まえてご紹介させていただきます。

まず、歯がしみる痛みを理解するためには、歯の構造を理解する必要があります。
歯は表面から順に、歯冠部ではエナメル質→象牙質→歯髄、歯根部ではセメント質→象牙質→歯髄で構成されています。(図1)
それぞれ簡単に説明すると、

・エナメル質:人体で最も硬い組織で、厚さは2~3㎜
・象牙質:動物界に共通して存在する組織で、生物が持つ歯としての必須条件
・セメント質:骨と同じような組成・硬さの組織
・歯髄:種々の細胞(神経細胞の末端、線維芽細胞、未分化間葉細胞など)や血管、その他コラーゲン線維などが存在する柔らかい組織であり、所謂「神経の部屋」

となります。

図1(https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/knowledge/01.htm

象牙質の表面には象牙細管と呼ばれる無数の穴が開いており、その穴は管となって歯髄に到達しています。(図2)
この象牙細管内は、組織液という液体で満たされています。
虫歯、歯ブラシによる摩耗、歯ぎしりによる咬耗などにより、エナメル質およびセメント質がなくなると象牙質が露出します。
むき出しになって穴だらけの象牙質に、甘いものや冷たいもの、歯ブラシ、空気などの刺激が加わると、鋭い痛みが生じます。
これが、歯がしみる痛みです。

図2(https://systema.lion.co.jp/shishubyo/glossary/c_chikakukabin.htm

では、神経の通っていない象牙質表面に刺激が加わっただけで痛みが生じるのはなぜでしょうか?
その謎を説明するのが、動水力学説(hydro dynamic theory)です。
先ほども述べましたが、象牙質表面には組織液で満たされた象牙細管の入口が開いています。
象牙質表面への刺激は象牙細管内に浸透圧差を生じ、これにより象牙細管内の組織液が移動します。
そして浸透圧差により移動した組織液の流れが、歯髄に存在する神経を刺激して痛みとなるのです。(図3)
たとえば、チョコレートを食べたときは、チョコレートに含まれる糖分により象牙質表面の浸透圧が高張となり、象牙細管内の組織液は表面側に引っ張られ、痛みが生じるのです。

図3(https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/trouble/03.htm

また最近では、象牙質と歯髄の間に存在する象牙芽細胞(odontoblast)という細胞が、浸透圧差により移動した組織液の流れを感知し、さらにその情報を神経に伝達することが示されつつあります。
これを、象牙芽細胞‐動水力学受容体モデル(Odontoblast receptor hydrodynamic model)と言います。(図4)

図4(歯界展望vol.138 No.6 p.1123 澁川ら)

では、神経細胞や象牙芽細胞がどうやって組織液の流れを感知するのでしょうか?
それは、細胞の表面(細胞膜)に存在するイオンチャネルという名前のタンパク質が担っています。(図4)
イオンチャネルは普段は閉じていますが、様々な刺激(温度、酸、細胞膜変形、薬など)により開きます。(図5)
イオンチャネルが開くと、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどのイオンが細胞内に流入します。
このイオンが電気信号となり、脳まで痛みの信号を伝導・伝達するのです。

図5(https://www.biophys.jp/highschool/A-10.html

歯がしみる痛みでは、TRPチャネルおよびPiezo1チャネルという種類のイオンチャネルが、組織液の移動による細胞膜の変形を感知しています。(図4)
ちなみに、TRPチャネルおよびPiezoチャネルの発見は2021年のノーベル医学・生理学賞にも選ばれています。

2021年ノーベル医学・生理学賞の受賞者、デービッド・ジュリアス博士(左)とアーデン・パタポティアン博士(右)
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2021/summary/

難しい部分もあったかと思いますが、歯痛の理解には欠かせない話ですので、ご説明させていただきました。
今回の記事が少しでも歯痛に関する理解への一助になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

歯科医師 倉島竜哉

参考文献
・組織学・口腔組織学 第4版 わかば出版
・基礎歯科生理学 第7版 医歯薬出版
・歯科展望 vol.136 No.6 2021-12 医歯薬出版
・保存修復学 第5版 永末出版

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